「コンピュテーショナルデザイン≠最適解、効率化」という話

コンピュテーショナルデザインという言葉

今日は表題の通り、「コンピューテーショナルデザインと最適解・効率化というのは同義ではない」という話をしようと思います。この記事を書くに当たって、まずgoogleで「computational design architecture」を検索してみました。

google検索の結果です

それっぽい、まさに皆さんがイメージしているものたちが並んでいると思います。

しかしそもそも、この「コンピュテーショナルデザイン」という言葉、日本では特に、とても曖昧な使われ方をしていて、デザイン・意匠という意味で使われる場合と、施工段階におけるBIMを指して「コンピュテーショナルデザイン」と言って使われている場合があるように思います。施工段階においてBIMとは、単に施工の情報を3Dモデルに載せるだけでなく、デザインモデルの形状を調整し、施工可能な状態までブレイクダウンする部分も担います。

実際に形状を調整するという点において、広義の意味では前者、後者ともに 「コンピュテーショナルデザイン」 と言うことはできると思いますが、具体的な内容に踏み込んでいくと、これらの性格はかなりちがいます。そのため、ここではコンセプチュアルデザイン(意匠)におけるものを「コンピュテーショナルデザイン」として、以降設計段階での行為を「BIMサポート」と呼ぶことにします。

よく使われるソフトウェアたち

コンピュテーショナルデザイン 、 BIMサポート 、どちらにおいてもモデリングのソフトウェアを使用しますが、初期のデザイン段階でよく使われるソフトウェアだと

Autodesk Maya
Houdini
Cinema 4D
Modo
Autodesk 3Ds Max
ZBrush
Rhinoceros
Blender
Skethup
CATIA
SolidWorks

etc

この他にも、プロダクトで使われているものなど私があまり慣れ親しんでいないものなどたくさんあると思います。しかしここから設計段階で詳細を詰めていく際に使用するソフトウェアになるとかなり限定されます。特に建築分野でいうと

Autodesk Revit
Rhinoceros
CATIA

になるのではないでしょうか。実際、このあたりがシンテグレートの通常の業務でも頻繁に使われています。こういった状況もあり、建築分野では、デザイン段階から施工段階まで通して使えるソフトウェアとしてRhinocerosが広く使われているように思います。

コンピュテーショナルデザインの色々

コンピュテーショナルデザイン、この言葉の明確な定義はないように思いますが、さまざまな情報(座標系、時間系、環境系、物理系、数学系など)を定量化し、パラメータとして変換して形状に落とし込むデザインに対して使うとしっくりくる気がします。デザインツールとしてスクリプトやアルゴリズムを各ソフトウェア内で組み、ジオメトリを生成します。

Digital Grotesque II (2017)/ Michael Hansmeyer

しかしパラメトリックな手法でなくとも、デザインの発想の起点、展開を3Dソフトウェアに依存し、ソフトウェア特有の機能を用いてモデリングしていくものも、コンピュテーショナルデザインと私は考えています。

Puente Sant Adria de Besos (2014)/ Xefirotarch 
昨年LAに竣工したデジタルサイネージ+市民プラザ
SUNSET SPECTACULAR (2021) / Tom Wiscombe 
Desert Resort (ongoing)/ Mark Foster Gage
Discrete Architecture/ Gilles Retsin

上のいくつかの例を見てもらってもわかるように、 コンピュテーショナルデザインと一口に言っても、そこには様々なスタイルがあります。

BIMサポートの色々

こちらはシンテグレートの業務のメインである部分です。このブログでもテクニカルな手法やモデリングツールの説明などたくさん紹介されていますね。客観的に形状を評価しながら作業をおこなうので、上のコンピュテーショナルデザインでやる操作とはかなり性格がちがいます。与えられた条件に対して、基準線、基準面、それに対する許容値など、変更してはいけない部分と、調整可能な部分の住み分けを明確にして作業します。

このフェーズの中で行う、意匠モデルのジオメトリをよりシンプルに、きれいな形状に調整し直して、モデルの精度を調整するという点では「デザイン」と言えるとも思いますが、これらは「コンピュテーショナルデザイン」というよりも、「コンピュテーショナルな手法を用いて問題を解決する、形状として幾何学的に整理する」という表現が適切なように思います。

しかしメディアで紹介されるような場合には、意匠側のことか、施工サポート側のことかについてはあまり言及せず、どちらも「コンピュテーショナルデザインによる建築」というように紹介されることが多いのではないかと思います。

ちなみにこちらはZAHAのMorpheus Hoteです。これは意匠はZAHA、BIMサポートとしてはFRONTが入った、誰もが異論のないコンピュテーショナルデザインを用いた建築といえるのではないかと思います。

The Morpheus Hotel: From Design to Production: Live Webinarより抜粋
The Morpheus Hotel: From Design to Production: Live Webinarより抜粋  
*FRONTはGHのプラグインで有名なElfrontを開発した会社です

コンピュテーショナルデザインとBIMサポートの性格のちがい

つまりコンピュテーショナルデザインとは、言葉のとおり、意匠・デザインであって、その中にもさまざまなスタイルがあります。そしてそれは最適化や効率化を目指しているものではなく、デザインなのでかなり主観的な判断で進めていく作業です。

一方、BIMサポートでは、効率化やさまざまな条件から最適と思われる解を導き出すことがミッションのひとつです。曲線を近似化したり、3次曲面の平面近似分割することで施工可能な状態までデザインモデルをブレイクダウンさせていきます。これらは、客観的視点に基づいて行う作業で、ソフトウェアの内部的にどう処理されてジオメトリが作られているのかというところまで気にしながら行うこともあり、かなり技術屋的な感じです。

だからこれだけ性格の違う、かつ各々の行為へのモチベーションが違うものに対して「コンピュテーショナルデザイン=最適解、効率化」とイコールで結びつけてしまうのは、誤解を招きかねない表現なので気をつけたいところです。

コンピュテーショナルデザインはとても自由

コンピュテーショナルデザインとは表現したいもの、作りたいもののために、ソフトウェアやスクリプト、アルゴリズムを駆使しています。上の例に上げたようなスタイルのものたちは、日本ではまだあまり受け入れられづらく、この部分の理解はあまり浸透していないかもしれません。 しかしコンピュテーショナルデザインのおもしろい部分とは、時に人の想像を超えるような表現の振れ幅を見せてくれるところではないかと思います。

Grasshopperひとつとっても、デザインのツールとして使うか、BIMのソリューションを出すためのツールとして使うかで、同じソフトウェアでも使い方や必要な知識は全く異なり、使うコンポーネントも全く違います。しかしどちらにもいえることは、ソフトウェアやプログラミングに対して深く精通することで、今まで見ることのできなかった新たな世界を見せてくれることです。

面のサブディビジョンの手法を用いたデザインスタディ
ALTVのEducational Resouces/Grasshopper Python ページより

最後に

「コンピュテーショナルデザイン」、「BIM」など、こういった言葉は、最近流行りの「AI」という言葉と同様に、言葉がひとり歩きしてしまいがちです。正しい理解がないままに広がってしまうと、それゆえに怪しい、なんだか信用できない言葉になってしまいます。だからこそ、こうした言葉の正しい理解が浸透していくことで 「コンピュテーショナルデザイン」、「BIM」 がもっと日本の建築業界に正しいかたちで活用、浸透されていけばよいなと思います。

 

 

ではまた。次回へ続く。

次回予告

  • コンペのコンセプト「Controlled Disorder」
  • メッシュモデリングツールの可能性
  • 「コンピュテーショナルデザイン≠最適解、効率化」という話
  • ツール由来、ボトムアップのデザインのおもしろさ
  • Ceiling Light スタディ日記
  • Ceiling Light 製作日記①
  • Ceiling Light 製作日記②

Kenichi.Kabeya

主にファサード担当。制作会社、アトリエ設計事務所、フリーランスを経て現職。モノを作るのが好き。

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