FMのためのBIM(1)
最近FMについて、業務として調査を行っています。私は現在入社4ヶ月目なのですが、これが初めて与えられた業務でした。調査してわかったことを皆さんにお伝えと思います。 内容が長いため、2部構成の予定です。
FMの成長と定義
“過去の都市は、技術と社会の急速な変化に伴い物理的に大きく変化し、建設の供給を中心に量的に増加してきました。 現在はこのような量的変化がある程度限界に達し、既存の物理的環境を再生したり効率的に管理したりする問題が次第に重要視されてきました。 また、物理的環境とその資産を管理するFM分野におけるライフサイクル的観点からの管理と持続可能性の問題が持ち上がりました。 特に、1980年代以降急速に増加してきたFMの領域では、今後デジタル化と持続可能性の分野が極めて重要な影響力を持つと予測されています。”
– Shaping tomorrow’s facilities management, Jan Bröchner, 2019.
FMはFacility Managementの略称です。IFMA (International Facility Management Association, 国際FM協会)ではFMを次のように定義しています。
A profession that encompasses multiple disciplines to ensure functionality, comfort, safety, and efficiency of the built environment by integrating people, place, process, and technology.
すなわち、場所または施設を、利用する人、プロセスと技術によって効率的に、かつ目的に合わせて管理することを言います。
FMは大きくHard FMとSoft FMに分類されることがあります。 分ける基準は、何らかの機関や協会によって決められたものではありませんが、主に物理的な設備管理、資産としての建物管理はHard FM、ソフト面、設備の運用にかかわる場合にはSoft FMに分けています。
Hard FM – メンテナンス、電気電力システム、照明システム、空調システム、配管、ITインフラ、給水施設、賃貸、資産価値管理など
Soft FM – 空間計画、ユーザーサポートサービス、掃除衛生、セキュリティ、ケータリング、環境健康安全、メール管理、水管理、駐車計画など
BIMの活用は、上記全てのFM分野で可能です。ただ活用されやすいのは、より関連性の高いHard FMの分野です。
CAFMを活用したFM・互換性
現在、FMのデータはCAFMソフトを使って管理されています。CAFMとはComputer-Aided Facility Managementの略で、このソフトウェアを介して施設に関する情報を集約し、その情報を基に様々な分析や運営管理ができます。
説明が難しいですが、CADと比較してみましょう。昔は手作業で作成された建築図面も、今ではコンピュータを利用してCAD(Computer-Aided Design)によって作成されています。 CAFMも同じように、FMのためにコンピューターを利用したものです。
現在、市中で発売されているCAFMソフトは、次のような機能を備えています。代表的なソフトは、Archibus、Ecodomus, Onuma, FM:System, QFM, Centerston:CAFM, ArchiFM があります。
上の表のように、現在CAFM は様々な管理を目的として使用されています。また、BIM、GIS、Sensor/IoT とも連動し、新しい技術への汎用性を広げています。 特に多様な管理を行うためにはデータの量と質が重要となりますが、事業初期からBIM を活用できれば、施設に関する良質なデータを着実に管理することで、より高いレベルのCAFM を実現できるでしょう。
CAFMでBIMを使用した際のメリット
では、BIMをCAFMに使った際の良さを見てみましょう。まず、FMには大きなメリットがあります。
1.引継で発生するデータ損失、時間及び費用の節約
上のグラフは、プロジェクトのライフサイクルにおいて、各ステップごとのデータ量をBIMを使ったときと使わなかったときで比較したものです。
BIMを使用しないときは、各段階から次の段階に移るときにデータの損失が発生します。特に完工時のオーナーへの引継ぎの段階で大きな損失が起きます。 従来の2D図面、仕様書、オペレーション/メンテナンスマニュアル などは主に印刷して保存されており、データとしても統合されていないPDF、xls、doc などの形式で保存されてきました。 このため、引き継ぎの過程で多くの時間と費用が費やされていますし、データの紛失も起きやすくなっています。加えて、FMの段階で必要なデータかどうかの区別も困難になってしまっています。 また、建物のオーナーやマネージャーの大多数は、設計・建設段階での参加率も低く、施設についての専門的な知識もあまりないため、データをきちんと活用できなくなっています。
しかし、BIMを利用する際は、デジタルベースでプロジェクトが進行し、全プロセスを通して3Dモデルと豊富なデータを入力管理します。このため、紙資料の量を最小限にとどめつつ、BIM モデルに最大限の情報を取り込むことができるようになっています。 これによって、各段階ごとの情報の受け渡しの過程で、データの損失を最小限に抑えることが可能になります。CAFMの要求条件に合わせて最適化したデータは、システム間のデータ移動の際に消費する時間とコストを削減できるようになっているのです。
また、BIM で使われるCDE(Common Data Environment)は、データを円滑に保存・共有するためのシステムです。これを利用すると、オーナーに設計の初期段階からFM に関して考えてもらい、データ作成・管理に生かすことも可能になるかもしれません。(この記事のCDEの項目もご覧ください)
2.全体的なビューを活用したモニタリングが可能
CAFMソフトとBIMソフトを連動させることで、資産データベースを構築し、それを視覚的に様々な方法で見ることができます。このビューは短期・長期の計画、メンテナンス日程の策定、財務決定などのO&M活動に使用することができます。
また、施設の空間の需要は時間の経過ととも変化することもあります。 BIMを空間情報と一緒に使用すれば、施設管理者が使用可能な空間を直接シミュレーションしたり、外部業者に正確な情報を提供して作業を容易に進めることができます。
CAFM ソフトウェアであるArchibusの事例(以下の画像)を見ると、アップロードされたBIMデータをもとに、基本的なFMを超えて、スペースマネジメント、資産マネジメント、財産ポートフォリオのような作業を実行できるとのことです。
3.予防的なメンテナンスによる、施設の計画的な管理
施設管理者はCAFMを利用してメンテナンスの計画ができます。 状況を評価し、修繕作業、改造、空間変化等に関する情報を決定を行うことに使用することができます。 このため、緊急の修理や繰り返されるメンテナンスの必要性が減り、施設の性能、利用者の利便性が向上し、O&M活動にかかるコストが削減されます。
4.エネルギーの削減
施設管理者は、ビルの予測性能を実際の性能と比較することができます。設計段階では、BIMモデルにより環境性能をシミュレートできますが、建物の完成後は、CAFMにより個別システムの性能を分析・検証し、シミュレーションと一致しないところを把握することができます。 更に、増築や改修の、環境性能への影響を評価するのにも使用できます。
5. 意思決定の根拠として
全てのプロジェクトで最も重要なことは、適切に、かつ効率的に意思決定を行うことです。 建設プロジェクトにおける意思決定の効率性は、データが柔軟に使えるかどうかに依存しています。 BIMはプロジェクトに関する正確な最新データを豊富に提供し、計画から施工、メンテナンス段階に至るまで、プロジェクトライフサイクル全般にわたって正確な意思決定を支援することができます。
これはFMに関することでも同様です。従来は建物の完成後にFMについての意思決定を行っていましたが、それを設計の初期段階から行うことが可能になります。 それによって、FMの面での要望を設計の初期段階からしっかりと反映し、テスト、 試運転、引継の過程がより容易になります。
設計から施工の段階で作成されたBIMデータによって、施設の管理者がより容易に管理の計画を作成できるようになります。そして、 施設の用途変更や、大小さまざま改修など、いろいろな選択肢の中で最適な決断を下す助けになります。
BIMのためのFM(1)では、FMの成長と定義、CAFMを活用したFM及び互換性、FMでBIMを使用したときのメリットについてお話しました。
2部ではFMに至るまでのBIMの作業の流れ、COBieやIFCの活用などについてお話ししたいと思います。