複雑なファサードでありがちなこと #2 書き寸法とモデル
複雑なファサードシリーズ、前回はパラメトリックにスタディするだけではない、建築のモデリングならではの検討項目について書きました。
今回は2D図を書くときは「正しい」ことが3Dの形状として問題になるようなシチュエーションについて書いてみたいと思います。
図形と寸法は整合するべきか
製図の経験がある程度ある方ならわかるかもしれませんが、寸法の追い方にもうまい下手がありますね。
場合によっては「書き寸法」というものがありますが、原則、寸法線は形状を押さえて寸法を示しています。
ときたま、作図の線があれているCAD図をごまかして「910.01mmなのに910mmに丸めている」
というようなことがありますが、胸を張れる状況ではありません。
しかし、一方で、むやみやたらと寸法を押さえるのはよくないという場合もあります。
図面は設計者と施工者のコミュニケーションのためにあるので、正確であることと同時に意図している内容が読みやすいことも大切です。
以前、スロープ状の渡り廊下の設計をしているときに断面詳細図に鉛直方向の高さ関係を押さえていて天井高さや天井フトコロを示した流れでスラブ厚みを寸法線で示しそうになりました。
しかし、実際に鉛直で切ったときに出てくる切り口の寸法を示せば「正しい」けれども誤解を生みます。実際に施工者にとって大事なのは鉛直方向の寸法(199mm)よりもスラブ厚(200mm)であり、図面にスラブの絵があり、そこに寸法線があればそれはスラブ厚を示しているのだろうと考えるのが自然だからです。
この場合、製図方法として正しく誤解のないのは引き出し線で仕様としてスラブ厚を書くことでしょう。
実務上は鉛直方向の寸法線を続けて書き寸法で意図するスラブ厚を書いて「スラブ厚を示す」などの注記をつけても正しく施工されると思います(少なくとも日本の優秀な施工者であれば)。
表現であることを忘れるとだまし絵になる
さて、図面というのはコミュニケーションの手段であるとともに思考の手段でもあります。
3次元の立体を事前に操り検討するというのはそれなりに難しいので、文字通り問題の次元を下げて考えるというのは妥当なアプローチです。
しかし、手書きのスケッチに振った寸法が意図を伝える「表現としての寸法」なのに、「実際の形状を追った寸法」であるかのように、描いた本人が誤認しはじめると混乱がはじまります。
図面や部材同士が互いに矩手(直交関係)であれば大きな問題になることは少ないですが、
斜め同士の取り合いや曲面の場合は、常識的な図面(平面図・立面図・断面図・平面詳細図・矩計図)に現れる寸法をキリよくすると、実際に製作するべきもののサイズがイレギュラーなサイズになることがあります。
先ほどのスロープでいえば短手の(鉛直)断面図のスラブのところに200mmと書いてしまうと本当のスラブ厚は200×cosθ(θは勾配)になってしまいます。
かといって短手も長手も同じ寸法を書けばそれはだまし絵です。
別の例を出しましょう。
複曲面に対して梁をつけるときなどに断面図で検討すると、断面線の法線方向に測った梁成と鉛直方向の高さは当然一致しません。
さらに落とし穴なのは、面の法線方向と断面図における断面線の法線方向は一致しないということです(直交方向の断面図まで思い描けばすぐわかります)。
梁は軸周りに回転させないのであればよいのですが、面なりに梁を向けているとX方向でもY方向でも断面図に梁成が出なくなります。
このような「直感的な寸法」と「図学的に正しい寸法」に違いがある状況で、3次元的モデルを使わずにスケッチで天井フトコロを検討したり、幕板の寸法を考えていてモデルに起こすと、隙間ができたり干渉したりということはしばしば起こります。
斜めや曲面が増えてくると検討の際に表現として書いている寸法なのか、図学的にその断面に現れる寸法なのか、意識していても混乱するものです。
実務でも、打合せの場でモデルを見せて切り出しながらスケッチ重ねることで理解していただくことがよくあります。
複雑形状のモデリングで基準となるものを決める際にもこの考え方が重要になりますが、長くなるのでそれはまたの機会に。
*2021/10/08タイトル更新