BIMの波に乗るサーフィンの季節がやってきました
本稿は、前回の石原氏からの質問寄稿に対する回答という形になりますので、まず関連する寄稿文を見ることが全体的な理解に役立つと思います。 リンクは次の通りです。
質問となっている寄稿で、建設プロジェクトに関わる代表的な利害関係者に分けて問い合わせてくれました。 私の答えが同じような疑問をもつ読者の皆さんにも役に立てれば幸いです。
この投稿では、理論的な内容よりは私の経験に触れることで例を挙げて答えになるようにしてみました。
プロジェクトオーナーにとってのサーフィン
ほとんどの建設プロジェクトは建築主が莫大な金額を投資する行為です。建設プロジェクトはある建築主にとっては一生に一度のこともありますし、ある建築主にとっては定期的なこともありえます。 どんな建築主であれ、建物を建てると決めたら、周りから話を聞いて最適の計画を立てようと努力するでしょう。 このような過程でBIMについて調べ、国土交通省の資料まで読んだとしたら、おそらくシンテグレートの連絡先がインターネットサーチに出るのは時間の問題だと思います。
質問の投稿には同時に正解も含まれていて、最も良い例は建築主がPM/CM社を雇用してプロジェクト調達計画を立てるケースと考えられます。 小規模プロジェクトでは設計者が早い段階で選定され、一種のPMの役割もしますね。
このような事業企画(Project Initiation)段階で、建築主の要求条件に基づいてBIM適用の妥当性を建築主に説明し、承認を得て予算に反映すれば、良い効果が期待できる出発点に立ったと思われます。 私がPM会社に在職していた時は、BIM適用の妥当性を判断するためのマトリックスを活用して建築主にコンサルティングをしたりしました。
周期的に建築プロジェクトを行う経験のある事業主であれば、標準EIRまたはBIM 要求水準を専門コンサルティング会社を通じて準備し、プロジェクトに活用していけばいいと思います。 海外プロジェクトの場合でもPMや設計者が、内部組織がなければBIM コンサルティング社を通じて関連内容を準備します。 建築主は何よりもBIM活用の目的をはっきりさせることが大切です。
設計者にとってのサーフィン
私は決して年を取ったわけではないですが、アンモニア臭い図面(青焼き)で作業をしたこともありますし、CADが実用化される過程も見ました。 手作業からCADに移る時どんなに苦しい時期があったのか記憶がはっきりしませんが……CADからBIMに移る今も似たような過渡期だとよく言われます。 BIMが一般的な設計業務ツールとして位置づけられている設計事務所も増加しているのが事実です。 これらの会社では、2Dを利用するプロジェクトとBIMを利用するプロジェクトを区別しません。
わたしたちが過渡期の波の中であれば「2D to BIM」ソリューションがそれほど悪いとは思えません。 設計事務所で全職員がある日から突然BIMで設計を進めることは期待できないからです。 設計事務所のBIMソフトウェアを運営する力量が不足し、追加のBIMオペレーターを配置しなければならない場合は、実際にデザインをする設計者と業務の流れが繋がるようにプロセスを変えなければなりません。 当社で行った「2D to BIM」プロジェクトの例では、基本設計の中間段階ではCAD(2D, 3D)でデザインをし、BIMオペレーターがBIMモデルに変えました。 その後BIMモデルのLODを高めます。 この過程のうち、デザイナーはCADやハンドスケッチを介してBIMを運用し、BIMモデルviewerソフトウェアを通じて進行過程を随時確認し、コメントします。 BIMでの重ね合わせ調整を通して発見された様々な問題点もチェックして解決することができるでしょう。 デザイン担当者は、既存のCAD製図業務が少なくなったため、今までの業務の範囲よりも多くのデザインパッケージを担当できると考えます。
もし既存の設計人員がCADで設計を終えた後にBIMモデル化すればたくさんの人手が投入され、設計期間は締め切りに差し迫って困難が多かったでしょう。 もし、建築主が設計の最終段階でのみBIMモデルだけを要求したとすれば、建築主のBIM適用の目的も多少釈然としません。 BIMで重要なのはプロセスだからです。 あるべき姿であれば、設計段階ごとに設定した通りにデザイン修正と干渉チェック(重ね合わせ調整)されているか確認するはずです。 私が経験したBIMを適用した設計プロジェクトは、それぞれのデザイン段階ワークショップごとにBIMを活用するようにしました。 このような過程はデザインの完成度を高め、施工設計のリスクを減らすための努力です。 この話をすると、思い出すことがあります。 一度、実施設計図書をもとにBIM化するパイロットプロジェクトを行ったことがあります。 その結果は予想よりずっとインパクトがありました。 建物の様々な場所で問題点が明らかになり、解決のためにデザインの変更が必要となりました。 このような潜在的な問題点は施工会社が自ら判断することもできるでしょう。 しかし、リスクをあらかじめ発見して解決するほうが望ましいのではないでしょうか? こういった問題点はクレームの対象となる可能性があるからです。
このようなフロントローディングは質問文にリンクした内容からも分かるように、設計者に金銭的な補償がなされることが望ましいと考えます。 一方では、プロジェクト調達契約の方法の多様化も考えられます。設計施工の分離発注にするか、デザインビルド方式にするかを考慮することができるでしょう。 設計段階のBIM情報の施工段階までの接続性を見ると、施工者が設計の責任を持っているデザインビルド方式が契約上有利な部分があるように見えます。
BIMのROI(投資収益率)は様々なレポートからも分かるように、BIMの熟練度が高いほど満足度が高くなります。組織のBIM熟練度を高めるためには投資と忍耐が必要であることは避けられない事実です。
施工者にとってのサーフィン
施工段階では、現場での施工に必要な図面がデザイン段階に比べて数倍に増加します。 BIMを遂行するのが内部の人員であろうが、第3国のBIMモデリング外注に任せようが、多くの人員が関与する必要があります。 これほど多くの人員が投入された高度デジタルBIM情報は紙の図面ではなくデジタルフォーマットで渡され、ロボットが施工するとよいのではないでしょうか? そうしたソリューションが研究開発されていますので、近いうちに工事現場で見られると思います。
建築主のBIM要求水準によって施工会社BIMチームの構成と業務場所が決定されますが、過去のプロジェクトからみて、施工現場にBIM組織の主要人材が常駐する場合、業務の流れと他のチームとの協力の面ではるかに有利であるため、様々な現場の状況に迅速な対応が可能になります。
中東のプロジェクト現場のBIMチーム組織の2つの例を挙げます。
ケース1. 施工会社所属の少数のBIM管理人員と現地で調達した多国籍の人員でプロジェクト事務所にBIMチームを構成する場合
BIMマネージャーを派遣して現地でBIM業務人員を採用します。 BIM組織費用対効果の良い方法だと思います。 施工会社所属の人員を通じてプロジェクト組織間の円滑な業務コミュニケーションが期待できます。 多国籍のBIM職員はいろいろな経路で調べて採用しています。 私の場合は現地にあるBIM サービスのスペシャリストを活用しました。 BIMソフトウェア使用能力も重要ですが、建設プロジェクトの全般的な理解力も忘れてはなりません。 BIMモデリングだけで業務が終わるのではないからです。
ケース2. BIM業務を外注する場合
プロジェクトBIMの要求レベルとして明示されなければ、BIMの人員はごく少数のみ現場に配置し、海外のBIM会社で作業を行います。 コストを抑えなければならないということがほとんどの理由ですが、質問文にもあるような、想定できる問題点はそのまま現実となります。 特に、BIM遂行能力のない施工会社は煩わしいBIM業務を外注に押し付けて、形式的なBIMミーティング参加で適当に済まそうとする場合も多いのです。 このような無駄を防止するため、プロジェクトのBIM要求水準が具体的かつ明確でなければならず、施工業務の手続きがBIM適用に合うように計画されたかを一つ一つチェックしていかなければなりません。
2D施工図の作成について考えてみましょう。
期待値を低く設定しているかもしれませんが、施工段階BIMの最も重要な成果は干渉チェックが完了した施工情報です。 この過程で設計図書の誤りを見つけ、施工データを重ね合わせた総合調整を終わらせることで再施工、現場から出る産業廃棄物を最小化できます。 設計ミスと調整不足による再施工費用(工事遅延損害含む)には誰がお金を払えばいいですか? おや、もう入札価格に含まれているんですか。
中東でBIMで遂行したあるプロジェクトはLoD300-400程度でBIM モデリングをしました。 LoD 300程度のモデルでも、主要な干渉チェックを行うには十分だろうと思います。 BIMチームで干渉チェックが終わって確認されたモデルは施工図作成チームのための2D図下絵状態で(ゼネコンの)施工図作成チーム(AutoCAD)や下請け業者が活用できるようにします。 施工も最終出力をBIMでそのまま行ったことはありません。 先日、当社でRevitを利用したプロジェクトにおいて、1/100平面図、立面図などは若干加筆のみ必要な程度に仕上げることができました。 質問文で述べられているようにDynamoやプラグインなどでより自動化されればいいでしょうし、より多くの建材メーカーからもBIMライブラリが豊富に供給されれば役に立つと思います。 さらに2D施工図がそんなに必要ない状況も期待できるかも…
さて、まとめに入りましょう。 私はいつか自分の住む家を建てる夢を持っています。前述の一生一度だけの施主になるかも知れません。 最初はハンドスケッチで雰囲気を作って、ある瞬間からはBIMで作業をします。 構造設計者がBIMをできない場合は、2Dスケッチを受けとってBIMモデリングします。 弊社のスマートな人材たちのようにスピード感を持って作業することはできなくても、少しずつやっていけると思います。意匠と構造モデルを合わせて、隅々に問題がないかVRで確認し、インテリアオプションをシミュレーションして必要に応じて予想工事費を算出することができるでしょう。 設備の最適ラインも確定し、必要に応じてPre-fabricationや3Dプリンティングなど最適な施工方法も考慮します。 再施工による浪費という文字は私の辞書にはありません。 おそらく、CAFM(Computer Aided Facility Management)とまではいきませんが、将来の増築などを考えて正確なAs-built BIMモデルのアップデートはしておくのも良いと思います。
BIMの価値は、適用したテクノロジーがいかに最新で強大なのかではなく、可能な限りテクノロジーを現実的なツールとして活用し、プロジェクトにどのような価値を与えたのかで決まると思います。
読者の皆さんに建築主としての計画はありますか? シンテグレートのリラックスした雰囲気のミーティングルームは、良い対話の場です。