BIMによる建設業界の効率化は可能か?

BIMで建築・建設業界を効率化することはできるのでしょうか?私はイギリスと中東での様々なプロジェクトに携わってきました。2009年にBIMを使った最初のプロジェクトを行って以来、私にとってBIMはプロジェクト全体の効率を向上させるために最も重要なツールとなりました。英国でのBIM導入の流れと私の経験から、BIMを建設業界で導入する意義について改めて考えてみたいと思います。

建設業の生産性の低さ

建設業の長い歴史は他の産業とは比較になりません。しかし、技術革新や改革が急速に起こり、常に変化し続ける他の産業と比較すると、建築・建設業界は変化には不寛容です。このテーマについては、世界的に何年もの間研究が行われ、論文やレポートの形で発表されてきました。

紀元前2560年~2540年のピラミッドの建設図
Image source: https://medium.com/@sherif.agnaby/what-if-we-thought-about-building-the-great-pyramid-today-how-much-will-construction-cost-be82fddc61cc

21 世紀の建設プロジェクトは、いまだに建設現場での労働集約的な作業に大きく依存しています。この作業には低熟練者から高熟練者まで多種多様な労働者がかかわっていますし、彼らの技能レベルを検証することが困難な場合も多くあります。そして、建設業の労働生産性は、製造業のそれや世界的な経済全体の生産性をはるかに下回っています。

2017年のマッキンゼー・アンド・カンパニーのレポートによると、世界の建設業における従業員の1時間当たりの平均付加価値は1時間当たり25ドルですが、世界経済での平均値は1時間当たり37ドルにも上ります。

Source: Reinventing Construction: A Route to Higher Productivity, Feb 2017, McKinsey Global Institut

Rethinking Construction

Rethinking Construction」は、英国の建設業界の効率化に影響を与えた報告書です。これはジョン・プレスコット副首相の委託を受けた建設タスクフォース(議長: ジョン・イーガン卿)が、1998年に発表したものです。報告書には、英国の建築・建設産業の体質改善のために、自動車産業など他の製造業の生産工程における基準が記載されています。発行されてから20年以上経ってもこの報告書のメッセージは古びておらず、建設プロジェクトへのBIM実装を促すものになっているといえます。

2007年に出た別のレポートでは、報告書に示された7つの指針の進捗度合が評価されましたが、まだ満足のいくものにはなっていませんでしたし、10年後の目標設定とは大きなギャップがありました。報告書のアジェンダはまだ分野別に進行していたのです。

“私たちは、現場で何かが起こる前、設計や計画の段階でこれらの問題がより重要視されるように、プロジェクトにかける時間の割合を大幅に見直す必要があると考えています。つまり、設計は建物の建設過程や性能と適切に統合されている必要があります。”偵察”に費やされた時間は無駄にはなりません。

– Design for Construction and Use, Chapter 4, Enabling Improvement

BIM導入のメリット:私の経験から

BIMプロセスは、プロジェクトオーナーにとって有益な設計情報の質を、すべての利害関係者に対して大きく向上させることができます。私は以前、いくつかの問題は施工業者(特に現場チーム)に任せてしまえばいいのだ、と現場での工事の最中によく聞いたものでした。施工業者が工事を行う際には、確かに施工管理が業務の一部として含まれています。しかし、設計書の作成ミス、設計の曖昧さ、情報の欠落などは、すべてコストに変換されてしまうのです。設計変更コストの影響は、建物の建設段階では10倍以上、建物の運用段階ではそれ以上になります(cf. https://www.archdaily.com/262008/the-future-of-the-building-industry-bim-bam-boom)。

私が施工者側として最初にBIMを導入したプロジェクトは、注目を集めていた病院のプロジェクトでした。そしてBIMモデリング中に、設計図書に多くの設計ミスを発見したのです。これは建設前の段階で、プロジェクトにBIMを導入したことによる最初のメリットでした。私たちのBIMチームはその後、施工図、建設ロジスティクス、エンジニアリングのサポートののちに、分野横断的な調整をBIM上でかなりの量にわたって行いました。

“新技術が非常に有用なツールであることがわかっている分野の1つは、建物とその構成要素の設計と、建設チーム全体での設計情報の交換です。最新のCADテクノロジーを使用して建物を試作したり、設計変更の情報を迅速に交換したりすることで、無駄や手戻りをなくすという大きなメリットがあります。再設計は建設現場ではなく、コンピュータ上で行われるべきなのです。

– Technology as a Tool, Chapter 4 Enabling Improvement 

建築・建設業界には、新しい技術や最新の仕事の仕方への適応が他の業界に比べて遅れているという批判があります。この報告書がBIMテクノロジーを指して「最新のCADテクノロジー」と言っているかどうかは定かではありません。しかし、BIMを使用した進行中のプロジェクトで達成しようとしていることを、上記の文章は的確に言い表しています。

現在のBIMは、Revit, ARCHICADなどのBIMモデリングソフト、電子文書管理システム、BIMコラボレーションプラットフォーム、ワークステーションなど、様々なデバイスの技術的サポートの上で実践されています。例えば、私たちが行っているBIMプロジェクトでは、VR技術を使用して、ユーザーと顧客の体験を最大化し、複雑な建物の構成要素やBIMプロセスで特定された問題を詳細に探っています。

「仕事のプロセス」としてのBIM

しかし、改めて強調しておきたいのは、BIMは単なる技術でも、これまでの仕事の仕方での成果物に付け加わるだけの何かでもないということです。BIMを「仕事のプロセス」として捉え、組織のトップが十分な投資とサポートを行いながら、仕事の文化に根本的な変化をもたらすにはどうすればよいのかを考え直す必要があるのです。

2012年の北米市場におけるBIMの投資利益率調査では、下の表のようにBIMのメリット(利益の増大、クレームと訴訟の減少、プロジェクト遅延の減少、サービスの再利用)が明確に示されており、BIMユーザーの関与度が高いグループほどメリットを感じている人の割合が高いことがわかります。

Source: The Business Value of BIM in North America, McGraw-Hill Construction

改めてこの問いに戻りましょう:BIMによって建築・建設業界の効率を大幅に向上させることはできるのでしょうか?

私の答えは「Yes」です。BIMは業界の効率化のために非常に重要な役割を担っています。私たちは今何ができるかをチームで一緒に考えて一歩ずつ前進し、BIMの成熟度を徐々に高めていきます。

またBIMは、拡張現実/仮想現実、3Dプリント、3Dスキャン、ドローン、クラウドベースのコラボレーションなど、最新の技術にも対応しています。このような新技術が実用化がされるにつれて、建設プロジェクトでBIMが使われる割合も広がると信じています。

翻訳: kantaro.makanae
原文はこちら
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charlie.yoon

テクニカルディレクターとして、主にBIM関連業務を担当。 英国の設計事務所、中東の施工会社とプロジェクトマネジメント会社を経て、2020年にシンテグレートに入社。 国際的な経験を活かしつつ、かつ新参者として日本でのやり方を試しながら、「作業プロセスとしてのBIM」について書いていきます。 email: charlie.yoon@syntegrate.jp

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