『失敗の科学』Book Review
ごきげんよう。いきなりですが、なぜ人は失敗を繰り返すのでしょうか。
定期券を忘れて電車に乗った程度ならいいのですが、人の命を奪うような失敗もあります。
「能力が低いから間違うんだ、優秀な人間は失敗しない」という意見を聞くことがありますが、果たしてそうでしょうか?
今回レビューする『失敗の科学』では医師や飛行機パイロットなどの高度な専門職における失敗がどのように扱われるのかを具体事例を通してみていくことで、失敗から知的な蓄積を生み出すアプローチが描かれています。
医療ミスも航空機事故も重大な結果を生み出すのは言わずと知れたことですが、失敗に対するメンタリティーが意外なほど異なることが本書では示されています。
医療では無謬であるべきという強迫観念から失敗を共有し対策を検討するという活動が希薄なのに対して、航空業界では一定の条件のもと失敗を責めないことで情報を収集し、その後の安全対策に活用しているというのです。
「マジかよ、医者って悪いやつだな!!」という反応は性急で、読み進めていくと他の専門職と比較しても航空業界の取り組みのほうが特異なことが次第にわかってきます。医者と同様の反応の方が世間の多数派なのです。
本書は出てくる事例がどれも興味深く、医療、航空、司法やスポーツなど様々業界での失敗へのアプローチやその改善策が示されているので引き込まれるようにどんどん読めます。
航空業界もただただ称揚されるわけではなく、個人を糾弾することで社会的なフラストレーションを緩和しようとし、必ずしも正当性のない制裁を加えたのではないかという事例も紹介され、深く考えさせられます。
さて、建築や建設の業界ではどのように失敗と向き合っているでしょうか?
本書で示されるいくつかのアプローチは私たちの日常の業務でも使えそうなものです。
- マージナル・ゲイン
- リーン・スタートアップ
- ランダム化比較試験(RCT)
- 事前検死(Pre-mortem)
耳慣れないものですが中身を知ると「なるほど」というものばかりです。とくに事前検死の概念は面白くとっつきやすかったので次のプロジェクトでは使ってみようかなと思っています。
失敗をすること以上に、そこから学べないことを恐れ、失敗に向き合いたいものです。