FMのためのBIM(2)

最終更新日

前回ご紹介したFMのためのBIM(1)に引き続き、2部のお話をしたいと思います。 今回はBIMがFMに導入されるまでの作業の流れとFMで要求されるCOBie標準、そしてIFCファイルフォーマットについて簡単に扱っていきたいと思います。

BIMのFMまでの作業の流れ


A. 建設段階からBIMデータのFM導入を行うワークフロー

BIMがFM/CAFMに導入されるまでは、以下のような流れになります。

BIMからFMのまでのワークフロー

プロダクション(モデリング)の段階では、現場にあるデータと様々な情報を集めて整理し、BIMモデリングを行います。 この時に基準になるのは、あらかじめ決めておいたFM要求事項、BIMモデリング要素、モデルの詳細度(LOD)です。

作成されたBIMモデルは、グラフィック情報と非グラフィック情報に区分されたのちにCDEにアップされます。グラフィック情報はIFCファイル形式で扱われるため、いわゆるBIMソフト以外のソフトでも利用可能です。 非グラフィック情報の場合も、IFC形式にすることはできますが、場合に応じてCOBie標準に従い、xls形式にされることもあります。

COBieとIFCについては後ほど詳しく触れます。

そしてCAFMでは、CDEにアップデートされたBIMのデータを、CAFMシステム用に変換して使用します。 以上が建設段階から、BIMデータのFM導入を行うワークフローです。

B. すでにある建物をBIM化し、FMに用いるワークフロー

建設の段階ではなく既存の建物では、どのようにBIMを適用し、効果的なFMをサポートすることができるのでしょうか。

すでに建ある建物のBIMのDATA化 (Ecodomusの例)

まず、既存建物・設備を3Dレーザーでスキャンし、BIMモデル化します。 この時自動でBIMモデル化できない部分や、追加で情報の入力が必要な箇所は、所有している図面や仕様書などを基にした編集が必要です。 例えば天井の内側や、邪魔なものが多いために精度が落ちる部分が、BIMモデル化しづらい部分と考えられるでしょう。建物の状況や要求条件を考慮して、最適な方法を見つけBIMモデル化を構築します。

こうして完成したBIMモデルは、グラフィック情報と非グラフィック情報に区分されてCDE(Common Data Environment)にアップデートされ、CAFMに入力されて活用されます(Aの過程と同様です)。

以上のような過程で、これから作られる建物・すでにある建物の両方のBIMデータをFMに生かすことができるようになります。ここからはこれらの過程でよく用いられる2つの標準について、簡単に見ていきましょう。

COBie

COBieは、Construction Operations Building Information Exchangeの略で、ビルの設備データを扱うための国際標準です。 装置リスト、製品データシート、保証、予備部品、メンテナンス日程など、プロジェクトと施設に関する重要な情報を記録・管理するためのもので、スプレッドシート形式になっています。 少し抽象的なので、導入の背景と実際のCOBieの作成例を挙げてみましょう。

COBieが導入される前は、BIMを導入していない建築プロジェクトの各段階で大きなデータのロスが生じており、それを再構成するのに多くの時間と労力が必要になっていました(「BIMのためのFM(1)」でも触れたとおりです)。 施設入居者と所有者は、竣工後すぐに新しい施設を使うことができます。 しかし施設管理者は、竣工時の文書と図面を1つ1つ確認しながら、情報とメンテナンススケジュールをCMMS(CAFM、施設管理のためのシステム)に入力しなければなりませんでした。

一般的な引継ぎされた図面、文書

実際にFMのために必要な書類の作成を確認してみます。

https://www.wbdg.org/FFC/DOD/UFGS/UFGS%2001%2078%2000.pdf

上記リンク先のファイルは、アメリカの国防総省が作成した、施設管理のためのデータ条件の一部(完成提出物、運営、メンテナンスデータです)です。 国防総省の施設の管理者はこれらの条件を満たさなければなりません。上記の一部であり、国防部の統合施設ガイド事項(Unified Facilities Guide Specifications (UFGS))には、41もの要素について、様々な要求条件が示されています。

つまり、施工時に作られた多くの情報を、施設管理の際に改めて再検索・再構成して、これらの条件を満たすデータを作成しなくてはならないのです。これには多くの時間と努力が必要です。

これを改善するため、2007年にアメリカ陸軍工兵隊の建設技術研究所でCOBieが開発され、より構造化されたデータを収集するための形式へと改良が進められてきました。2011年のTexas A&M Health Science Centerでの研究では、複雑な作業依頼をする前に、技術者が情報基準を使用することができれば、年間メンテナンス予算の8%を節約することができるだろうと予測されています。

それでは、実際のCOBieファイルを通じて構成要素と入力を簡単に見ていきましょう。 COBieは以下のようなスプレッドシートとして存在します。

実際のCOBieエクセルファイル

背景の色によってデータは区別されています。黄色は必須の確認データです。 例えば設備名、設備の説明等が該当します。橙色は他のシートに関するデータです。 例えばボイラーの場合、ボイラーの位置は位置(Space)のシートから取り出します。紫色は他のソフトウェアから取得したデータです。 例えば、床オブジェクトに関する一般的な情報はRevitで読み込まれます。緑色はクライアントによって追加され得るデータです。 必要に応じて作成されます。

また、それぞれのシートには以下のような手順で、それぞれの情報を入力します。

プロジェクトの段階によるデータ入力

初期設計の段階ではFacility、Floor、Space、Zoneに関して整理し、設計段階ではType、Component、Systemについて、建設段階ではType(Warranty)、Componentなど、Operation段階ではjob、Resource、Spareなどのデータを、それぞれ追加していきます。このようにCOBie標準に合わせて作成された情報は、CAFMにプログラムで自動的に認識され活用できます。

COBieについてもっと知りたいときや、実際に練習したい場合は下のサイトをご利用ください。 実際に入力してファイルの内容を確認することができます。

WBDG (Whole Building Design Guide) COBieFile

IFC

BIMデータはFM分野だけでなく、VRやAR、アルゴリズムデザインなどの技術とも結びつき、より高い水準の設計自由度や表現力でプレゼンテーションの幅を広げています。また、大規模施設や建築、構造、設備を統合したBIMモデル、あるいはその解析を情報共有するために、コンピュータ、モバイルへのCDEでの連携も重要となっています。 このようにひとつのBIMデータをさまざまな分野で活用するためには共通のフォーマットが必要になります。

3次元形状と属性情報などのデータを異なるBIM関連ソフトウェアの間で活用するためのデータ交換フォーマットが「IFC形式」です。Building SMARTが開発したもので、ソフトウェア開発者は異なる様々なソフトウェア同士でのデータのやり取りをすべて考える必要はなくなり、IFC形式へのファイル変換のみを考えれば済むようになります。

ソフトウェア間の入出力とIFC

IFCファイル形式の目標は、建物のライフサイクルすべてにわたるコミュニケーション、生産性、出荷時間および品質の改善を図ることです。 建築産業の共通オブジェクトに対してつくられた標準であるために、ソフト同士で情報を送る際の、情報の損失を減らすことができます。 IFCにより、様々な業務(意匠、電気、HVAC、構造、ランドスケープ等)で形状、計算、数量、施設管理、価格などのデータが横断的に管理できるようになります。今まで分離されていた建設プロジェクトとFM分野を連続的に扱うためには、必須のファイル形式です。

ここで、IFCのファイル形式や原理なども扱ってみたいところですが、長くなってしまいそうなのでこの辺で。 もしIFCについてもっと気になる点があれば、以下のリンクで探していただければ幸いです。

IFC-Buildingsmart

leehanseul

SyntegrateのBIM コンサルタントの担当。建築について自由に書いていきます。

シェアする