慶應で出題したGH演習問題を公開します

今年の4月~5月末にかけて、代表の渡辺が6回にわたり、慶應義塾大学SFCで「建築技術論」という授業を担当しました。私はその中で、演習問題の作成と解説を行いました。

ありがたいことに、渡辺の方に授業を公開してほしいという要望が寄せられたようです。すべての公開はできないのですが、この記事では授業内で行った演習問題のうち、1つを公開しようと思います。

そもそもどんな授業だった?

毎週水曜1-2限の授業を行い、1限を講義パート、2限を演習パートとしていました。

講義パート

講義パートでは冒頭で建築の躯体~各部構法の基本的な知識をおさらいしました。その後さまざまな新しい事例に触れながら、情報技術がどのように建築の作り方を変え得るかについてお話をしました。

やり方ですが、毎週の講義日前に講義録画を公開しておきました。そして、当日1限はそれを見ながらライブで渡辺と私、たまにゲストを交えて講義内容の補足やさらなる解説を行う”副音声形式”を取り入れてみました。オンライン受講の柔軟性と講義のライブ感を両立させようとした苦肉の策でしたが、受講生にはおおむね好評だったようです。

演習パート

演習パートでは毎回1問演習問題を出題し、次の週に解説を行いました。Rhinoceros、Grasshopperを用いて建築の一部をパラメトリックにモデリングする問題を出題しています。以下で公開するのは3回目に出題した問題です。

演習課題: パラメトリックな鉄骨屋根

1. 図で指定した位置に、2本の鉄骨材をモデリングしてください

  • 鉄骨材の一方は200*200, もう一方は175*350のサイズとします
  • 鋼材の断面は日本製鉄発行の「建設用資材ハンドブックライブラリー https://www.nipponsteel.com/product/construction/handbook/」のうち、「H形鋼寸法および断面性能表」を参照してください
  • ※このハンドブックには日本製鉄で製作している建設用資材の規格が掲載されています。ここに載っている寸法の鋼材であれば、日本国内ではおおむね購入可能です。ここにないサイズのものは特注で製作してもらうことになり、比較的高額になり得ます
右から見た図
上からみた図
左から見たパース

2. 溝形鋼を2本の鉄骨に接合するパーツをGrasshopperで作ってください(パラメータ”tiltX-entire_steel”の変化に追随するように)

c-steel

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  • 上のGH定義(c-steel_blog.gh)を読み込んでください。これはモデリングした2本の鉄骨材の上に断面100*50のリップ溝形鋼(軽量鉄骨材の一種、Cチャンネルとも呼ばれる)を配置するものです
  • 初期設定(すべてのパラメータの値が0)では、パーツがXY平面と平行に配置されています
溝形鋼をモデリングするGH全体
溝形鋼をモデリングするGH、インプットのパラメータ
  • この溝形鋼を、モデリングした2本の鉄骨に接合するパーツ(図)をGrasshopperで作ってください
黄緑…溝形鋼 赤…モデリングするパーツ
パーツを右側から見た図 パーツの鋼材の厚さは6㎜とする
  • また、このパーツに対して溝形鋼はボルトで留められますが、その位置を示す点もGHで出力してください(上の図の赤い×)
  • 添付GHのうち、パラメータ”tiltX-entire_steel”が変化してもパーツが追随すれば成功です

3.添付GHのうち、パラメータ”tiltX-entire_steel”, “tiltX-each_steel”が変化してもパーツが追随するようなGH定義を作成してください

  • 出力は2.と同じく、パーツとボルト位置を示す点の2つです

4. 添付GHのうち、すべてのパラメータが変化してもパーツが追随するようなGH定義を作成してください

  • 出力は2.3.と同じく、パーツとボルト位置を示す点の2つです

5. ボルトとリブをパーツにつけ、すべてのパラメータ変化に追随するようにしてください

  • 配布GH中、inputされるパラメータ付近に2つのデータがあると思います
  • 1つは4.まででモデリングしたパーツに溝形鋼を留めるボルト(bolt)、もう一つはパーツが横にぶれるのを支えるための鋼材(リブ lib とここでは呼びます、鋼材の厚さは6mmとします)の外形カーブです
ボルト、リブがついた状態
  • この2つ(ボルト、リブ)をすべてのパーツにつけてください

最終的に、すべてのパラメータを動かしたときにパーツの形状と位置、リブ・ボルトの位置が下の動画のように追随すれば成功です。

作問の意図

実際の建築施工の現場でありそうな素材にする

今回の演習を通して、実施設計や製作・施工の時にでてきそうな問題を作ることを意識しました。多少演習用にデフォルメを施していますが(Cチャンネルのピッチやリブの高さなど)、Grasshopperは抽象的な美しい形を作るだけでなく、施工や詳細設計の際にも使えるということを知って欲しくてこのような問題にしています。また、講義パートで様々な建築やその構法に触れていたので、多少その内容とリンクさせたいとも考えました。「建設用資材ハンドブック」を取り入れたのもそのためです。

ジオメトリやデータ構造の理解が必要な課題にする

どの課題でも、扱うジオメトリや取り出すデータ、そしてその構造を考えてもらうようにしました。例えば今回の課題では、溝形鋼の角度を変えるとパーツの形が変わるようにしなくてはいけません。そのためには、

  • パーツの上辺の定義
  • パーツの上辺をもとにしたボルト位置の定義
  • パーツの下辺の定義(鉄骨に対しての角度の考慮が問題4以降で必須)

を明快に行わなければなりませんし、それぞれの形の図学的な理解が必須です。また、それらのデータを処理するには、GH定義各部でのデータの型や構造もわかっていることが大事でしょう。

むすび

いかがでしょうか。演習ではこのような課題を計5回行いました。地味で大変な課題だったと思いますが、学生のみなさんはよくついてきてくれたと思います。また、これが解ければGHのスキルは中~上級と言えると思います。腕に覚えがある方はぜひトライを、完答できた方はぜひこちらへ応募をしてみてください。

kantaro.makanae

当blog編集担当。入社3年目、前職は設計事務所。 シンテグレートの会社や仕事について、新人目線で書いていきます。銭湯と飼い犬をなでるのが好きです。

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