押山さんと考える、BIMと建築生産のこれから#4
押山さんとBIMや建築生産について議論するシリーズの4本目です。前回の記事では建築生産プロセスの時代性や、「押山方式」についていろいろと議論しました。今回は「押山方式」の他の課題や、建設テック企業が抱える問題について話しています。 前回記事はこちら
登場人物
実務上で起きそうな問題
壁谷: 押山方式では、DrawingXが理想的な形でできた後にお金を算出することになりますよね。でも、そのあとに現場レベルでの変更は起こり得ると思うんですよ。その時の責任の所在というか、どれだけ変更していいかって言うのが結構難しいなと。
押山: そこはたぶんシビアに決めないといけないんですよ。躯体と仕上げの位置が決まった段階では、変更できるのは仕上げの色だけですよ、みたいに、段階ごとに決められることとそうでないことをちゃんと共有していくのが大事なんだと思います。それも第3者の仕事になるんじゃないかなと。
吉岡: 逆に、専門工事業者はDrawingXをそういうレベルで描いたり手伝ったりしないといけないんですかね?現場に入る前に一旦、ほぼすべての物事が決まっているようなレベルで…
押山: それもなかなか難しいよね。
壁谷: 例えば竣工図と言われるレベルのものがDrawingXでは必要な感じですか?
押山: どれだけの詳細度をDrawingXとして担保するかっていう問題が出てくると思う。そしてそれは工事業者ごとに変わってくると思います。これだけの情報量の図面があれば施工できますって業者もいれば、より詳細に描かないとできない業者もいる。それによって契約範囲や単価が変わってくるかもしれません。
手始めにどこでなにをする?
壁谷: 押山さんの案って、契約を根本的に変えないとたぶん望んでた形にはならないですよね。それでも少しずつ何かを変えて、建設プロセスの透明性を上げていかなきゃいけない。そんなとき、手始めにまず何をやることになりますかね?
押山: うーん、まず何か、発注者がすごい損失や損害を被るような事件が起きないといけないんじゃないかな?と半分冗談で思ってますw そういう事件が発生して「あ、これまでのやり方だとだめなんだ」と気づくのが大事なのかなと。
蒔苗: やけくそすぎるw
押山: その前に僕らがなにかやるとしたら、ゼネコンかCMの下で情報を整理する補助をするか、自分たちがCMになるか、みたいなことをしないといけないと思う。
蒔苗: さっきの歴史の話に立ち戻ってみると、初めの方では官民っていう大きなひな形があったじゃない。お国がこうしているからみんなこうするんだ、みたいな。ぼくは「だから日本では、新しいやり方を国や行政を中心に広げていくべき!」って押山さんが言うのかと思ったんだけど、それは違うんだよね?
押山: 違いますね。確かに日本の場合お国がやったやり方がそのまま民間にも受け継がれます。ただ今の状況だと、官の人が全員BIMなどの技術を学ぶのは難しいんじゃないかと。あと、国主導でやるやり方を普及させるのって、政府中枢の人による管理主義の側面があると思うんですよ。そしてそれって結構国として危ないと思うんですよね。官と民の間には緊張関係があった方がいいんじゃないかとなんとなく思います。
蒔苗: なるほど。そうなると、どうやって民から広げていくかを考えていかなきゃいけないですね。
押山: そうですね。民間の発注者の中には「今の発注制度じゃないほうがいいんだけどな…」って思ってる人がいると思うんですよ。ゼネコンに一括で頼む必然性がよくわからないとか、見積を取ったけどなんでこの金額になるのか良くわからない、っていうことはよく聞くんです。
蒔苗: 確かにそういう人は一定数いそう。
押山: でも彼らもどういう風に発注制度を変えたらいいかはわからない。そういう発注者を捕まえて、一棟でもいいから事例として出して、こういう手法があるよって広報したり、論文にしたりするのがいいのかな。
蒔苗: それが発注者側の話ですね。じゃ今の業界の中で、誰がそういうお悩みを解決できる受け皿になれるか?っていうと、まずゼネコンではない。CMもDrawingXを描けなくて、建築や予算を客観的に管理することができないから、受け皿にはなれない。設計者はどうなんでしょう?
押山: 設計者もDrawingXはかけないですね。
石原: いや、そもそもこの議論で一番大事なのは、この業務の流れを設計する人が必要だよねってとこなんですよ。
蒔苗: あー、だから今の建設業界の中で誰が役割を果たせるかを話しても意味がない、ってことになりますかね?
石原: そう。建設業務を最適化するためにその流れを組み換える、ってことは論理的にはあり得るんだけど、業務の流れって契約の制度とか社会的慣習によって既に決まっている。こいつを変えるには強力な力が必要なんですよ。国家とか神(笑)のレベルの力が必要で、その立場がいないから、どうあがいてもおきてないんですよね。
蒔苗: なるほど…
石原: だから、それってもうできる手段はほんとに少ししかなくて。賢い発注者に自分がなるか、マンションのディベロッパーみたいな主体になるか。彼らは金も土地も持っていて、設計部も抱えていて施工もしているから、業務の流れの組み換えができそうに見える。でも、逆にこの2つぐらいしか選択肢がない。
押山: だから僕はこの10年のどこかで発注者にならざるを得ないw
石原: ならざるを得ない…w
蒔苗: どうやってなるかはおいておいて、まずは発注者にならないといけないんだね。
石原: 超効率的な生産手法で建物を建てる、みんなを感動させる施主になる的な…
押山: でも日本で一番賢い施主になったら、それってめっちゃ儲かるんじゃねって思うんですよねw
石原: ちなみに、「ザ・ゴール」っていう本ではこういう議論がされているんですよ。これを読むと今の押山くんの話をやることが、非常に重要なんだけど非常に難しいということがわかる。
蒔苗: それは、業務の流れの組み換えをやるということが?
石原: そう。例えば工場で、すごく腕がいい技術者や、性能のいいロボットを入れることは大した問題じゃない。それよりも工場での作業の流れを考える方が大事だよねっていう話なんですよ。最終目標をみて全体図を組み換えるっていうことの方が、経営にとって大きな話なんだ!っていうことを伝えるための小説なんです。
壁谷: なるほど。確かに工場ならできそうだけど…
吉岡: 工場は比較的閉じた世界ですけど、建設業界は閉じた世界ではなくて、生態系ですからね。
石原: そんな中で全体図を組み換えるのは本当に難しいはずなんです。法的にも慣習的にも、その生態系の中で決まっていることだから。
壁谷: それだとデザインビルド的な、ゼネコンが業務の工程すべてをやる枠組みの方が、組み換えの可能性を感じちゃいますね。
石原: 本当に賢いゼネコンがいて、自社の物件では業務の組み換えをやっていたとすると、他の会社に対して圧倒的な競争力を持つはずなんですよ。
押山: でもあんまりそういうことには興味を持ってない気がする… そこで言うと国土交通省の人たちの方が問題意識は持ってるかもしれない。
蒔苗: なんかだんだん、どうゼネコンや発注者自身になるかっていうことと、どう政権中枢に食い込むかっていうことの2点に話が集約してきた感じがありますね。身も蓋もないけど…w
建設テック企業の話
蒔苗: あれ、じゃあ彼らの轍を踏まないようにどうしたらいいか考えなきゃいけないじゃないですか。
石原: そうなんだよ。彼らが失敗した理由には、思想を全く共有してない社員が大量にいる状況を作っちゃったことがあると思う。事業拡大する中で、既存の枠組みから離れないような従業員をバンバン雇ってしまった。
押山: あと、Katerraは建物の標準化を目指したからだと思うんですよ。いろんな用途の建物のいろんな部分を一気に標準化して作ろうとしたからじゃないかなと。そもそもそれをやめてワークフローの組み換えを徹底してやるとか、標準化を目指すにしても建物の用途を絞るとかしたら、まだ道があったんじゃないかと思うんだけど…
蒔苗: つぶれた理由については、Fortec Architectsの大江さんの記事もわかりやすいですよね。こちらでは建設ワークフローの一社での統合をやろうとした結果、リスクを一手に引き受けることになっちゃったことが原因として挙げられてます。
吉岡: 一気通貫でできるから、利益率の向上ができる可能性があるってことですよね。
石原: でもKaterraの事例で分かったのは、既存のエコシステムに接続せずに建築生産を行うのが非現実的だってことなんだよね。
押山: そうなんです。それはできないんですよ。
蒔苗: VUILDさんの場合は、生産者や施工者のネットワークを作ろうとしてる感じもしますね。どうやって既存のエコシステムに接続するのかを考えてる感じがします。
石原: いずれにせよ、Katerraの事例からわかるように、社会全体の建築生産の増減を一社で受け止めるのは大きなリスクを負いすぎる。あと、言ってみればそれってゼネコン的活動なんですよね。建築を発注されるところから竣工するところまでを一社でやるっていうことだから、僕らがやりたい「透明性の向上」にはあんまり結びつかない。
押山: そうですね。価格の理由とか検討のプロセスをクリアにしたい、っていう話をしましたけど、実は一社で丸抱えするのって真逆なんですよね。資本主義の論理としてはすごくよくわかるんですよ。「いや、それは外部に出せないですよ。だってうちそれで金稼いでるんですもん。」みたいな。
壁谷: なるほど。でもその結果、価格やプロセスがクリアになってないなら意味ないじゃん!って話ですよね。
蒔苗: じゃ僕らとしては、単純に第2のKaterraを目指そうとしてる人たちには「君らだけで建設産業の生態系全部を抱え込めるわけないじゃん!もっといい方法があるよ!」って言えるようになりたいですね。一社で抱え込むんじゃなくて、みんなでいい建設プロセスを作ることが、リスクの面でも、建設プロセスの透明化の面でもいいはずだよ!と。
壁谷: ただそこに立つには施主になるか国になるか…
CMへの期待
石原: 僕個人の意見としては、まずはCMが本来の仕事をすればいいんだって思ってる。
蒔苗: CMこそが施主の代理人になるわけだから、この建設プロセスの書き換えが一番しやすいはずだと。
石原: 今の社会慣習を大きく変えずに、建設プロセスをなんとかできる立場はCMしかないと思うんだけど、今はみんなそういう仕事をできてない。
壁谷: 技術力のあるCMを目指すっていうことですかね。
押山: それが今一番リアリティがある話だと思う。CMって言いつつ、我々は他のCMとはこういう風に違うんですってアピールするというか。
石原: お施主さんの御用聞きだけやるんじゃなくて、建設プロセスを真面目に考えなおしますよ、と。
(編注:分離発注とかECIを駆使してそういうことが出来ているというCM事業者の方がいたらぜひお声がけください、BIMでビジネスを加速させます)
吉岡: DrawingXを書ける、技術提案ができるCMになるんですね。結果的にコスト圧縮したり、プロセスを透明化できる。
押山: それができると説明できる資料を作らなきゃいけない、ちゃんと本みたいな形で書かなきゃいけないなと思ってます。それにはCMのこれからのあり方とかも入れていきたいなと。
いかがだったでしょうか。まだまだ議論が粗削りな所があると思いますので、異論や反論などありましたら、ブログのコメント欄や代表のTwitterアカウントなどにお寄せいただければありがたいです。