プロジェクトでのBIMのはじまり
プロジェクトでBIMがどのように始まるのかを考えたことはありますか。なぜ、あるプロジェクトではBIMを使い、あるプロジェクトではBIMを使わないのでしょうか。
この記事では、様々な状況のプロジェクトでBIMがどのように始まるかについて、私の経験を紹介したいと思います。
自分のプロジェクトにBIMを使う必要があるのか?
一般的には2つの場合があります。1つ目は、設計者/請負業者がプロジェクトを実施するために、BIMの使用が契約上義務付けられている場合です。前回の記事でも簡単に触れましたが、必須のBIM要求水準はEIR、BIM標準、BIMマニュアルなどの異なった名称として、入札図書に記載されています。
2つ目は、プロジェクトを実施するためにBIMを使用する契約上の義務はないが、設計者/請負業者がプロジェクトの実施する上で役立つため、自主的にBIMを使用する場合です。この場合は、会社が実務レベルで十分に確立されたBIM標準を持っていたり、設計・施工エンジニアリングや施工図作成上、BIM(又は3Dモデリング)が唯一の方法であるようなプロジェクトであったりします。
上図のように、クライアント(プロジェクトオーナー)がすでにBIM標準を持っていて他のプロジェクトで使用している場合は、それをBIM要求水準として用いることができます。場合によっては、プロジェクト固有のBIM要求水準は、プロジェクト管理会社がBIMの必要性を検討した後に作成することもできます。クライアントがBIMデータをプロジェクトライフサイクルで目的に応じて使用するために、クライアントがBIM成果物と作成プロセスを完全に管理できることには大きな価値があります。
プロジェクトライフサイクルのためのBIM書類
BIMの導入は作業プロセスの変更を伴うため、プロジェクトライフサイクルの初期段階、理想的にはプロジェクト開始時にBIMの使用を計画することが重要です。プロジェクトオーナーは、BIMの使用目的とBIM情報の利用目標を定義することが重要です(BIM情報には形状情報と属性情報、Graphical なものと Non graphicalなものがあります)。これは各段階でのBIM要求水準を満たすためのガイドになります。
私はゼネコンでBIMマネージャー、プロジェクト管理会社ではBIM要求水準の作成を担当していたので、BIMを導入した建設プロジェクトで実際に何が起こっているのかを見ることができました。プロジェクトオーナーと何度も打ち合わせをしてプロジェクトのBIM目標を明確にしたり、BIMの習熟度が想定できる候補業者のBIM提案の技術評価を行ったりして、BIM要求水準を作成しました。また、クライアントの代表としてBIMマネージャーを務め、施工業者がBIM要求水準を遵守しているかどうかを監査しました。
ここでは、以下の2つのケースを取り上げます。
ケース1) プロジェクトオーナーはランドマークとなる建築物の設計を著名な設計チームに依頼しました。オーナーは提案されたデザインの外観を気に入っていますが、非常に複雑な形状のユニークな建築形態であり、設計チームが必要な空間調整を行ったかどうかを懸念しています。プロジェクトオーナーは、建設工事の入札段階において、適切なレベルの設計品質を維持したいと考えています。
このプロジェクトでは、設計段階での施工性の観点から多分野間での空間調整を行うために、設計チームは設計BIMを実施しました。その後、請負業者が多分野間での調整や施工エンジニアリングを用いたBIMを実施するために、施工BIM要求水準を使用しました。これは、現場での施工作業に先立って、建物の複雑な形状を理解し、建築設備の配置に関する問題を特定するのに役立ちました。
ケース 2) プロジェクトオーナーは施工段階の住宅プロジェクトを計画しているデベロッパーです。彼らはCAFM(Computer Aided Facility Management:施設管理支援システム)を導入したばかりで、建築の運用段階でもBIM情報を使用したいと考えています。
このプロジェクトでは、クライアントがプロジェクトにBIMを使用する明確な目的を持っています。このプロジェクトには施工BIMが導入されました。施工BIM要求水準では施工情報を用いたBIMモデルを定義し、施工プロセスを通して継続的に現場状況を確認し、施工情報の更新を行いました。BIM要求水準に竣工BIMモデルを定義し、CAFMの資産データ要件と整合させることが重要です。
プロジェクトが設計BIMで実施されていない場合、請負業者のBIMチームがBIMモデリング中に2D図面での設計上の問題を発見することがあります。以下は、私の過去のプロジェクトからピックアップしたいくつかの例です。
- 分野間での2D図面では見えない要素の設計上の問題:2D図面では情報が制限されるために生じた鉄骨構造のブレースとドアの干渉(断面図は通常、主要部分しか描かないためにこのような問題が起き得ます)
- 図面作成上の問題:2D図面に手動で誤った寸法が記載されており、施工BIMモデリングの際に天井高さの問題が指摘されました。設計者のQA(品質保証)/QC(品質管理)の問題で、大幅な再設計作業が必要となりました。
- 設計調整の問題:いくつかのプロジェクトでは、設計図書で当初指定された場所に天井上に十分な空間がなく、配置の制約もあるため、HVAC(冷暖房空調設備)のレイアウト修正が主な作業の1つとなりました。
下記のダイアグラムはプロジェクトのライフサイクルにおけるBIM書類の種類を示しており、赤で強調されている書類のセットは、プロジェクトの要求に応じてカスタマイズ可能な汎用性のある書類です。
必須のBIM要求水準と日本のAEC(建築・エンジニアリング・施工)企業
日本では海外のプロジェクトと比較して、BIMを必須とするプロジェクトはまだ少ないと思います。しかし、日本のAEC企業は海外プロジェクトを実施するために、BIMの習熟とBIMを実施できる体制を整える必要があります。BIMは2Dベースの提出物(図面)の、単なる追加成果物ではないことを、改めて強調しておきたいと思います。BIMは従来の作業プロセスに統合されるべきです。そしてBIMを作業プロセスに統合することは、面倒で複雑な過程ではなく、プロジェクトの遂行に大きな利益をもたらす過程です。
プロジェクト(設計/施工)の入札図書に書かれているBIMに関する全ての要件を理解し、従来の作業プロセスから慎重にチェックして更新することが非常に重要です。ここでは、プロジェクトリーダー(プロジェクトディレクターやプロジェクトマネージャーなど)へのサポートが重要になるのですが、残念ながら現場ではこれが見過ごされがちです。
施工段階のBIM要求水準は、通常より多くの項目を考慮する必要があります。下図から、プロジェクトのBIM導入が建設工事の作業範囲にどのような影響を与えるかがわかると思います。
これまでのプロジェクトでは、「BIM要求水準の一文」から「BIM要求水準の図書」をみて、それらをもとにプロジェクト・BIMの旅をはじめました。私たちは書類を注意深く分析し、問題点を明確にして、「始め良し(Well begun)」を実現します。
「始めよければ半ばよし(Well begun is half done)」– アリストテレス
翻訳: hiroo.maruyama